Think Of JAPAN While Knitting.
もう僕のブログでもおなじみだけれども、このプロジェクトは、たくさんの人に呼びかけて小さなモチーフを編み、そのモチーフを100枚程度ずつコーディネイトしてブランケットに繋ぎ、オークションと展示販売で売り、売り上げの全額を「あしなが育英会」に寄付して被災地支援、特に震災遺児の支援に役立てていただこうという、プロジェクトです。
サイトは、こちら。
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http://atricot.jp/tjwk/ 震災直後に
トロントの新田さん がこのプロジェクトをはじめられ、彼女とネット上で付き合いのあった僕の友人のニット作家・
atricotさん が呼応し、関西でもはじめることになり、僕が加わることになったのが、4月の中旬だったと思います。
新田さんのブログは、こちら。
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http://yaplog.jp/bunnybon/ atricotさんのブログは、こちら。
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http://atricot.jugem.jp/ 僕はニットのことなんて相変わらずなんも知らないけれども、このプロジェクトがすごく魅力的に思えて、本気で取り組む!と、二つ返事で引き受けたのでした。
共通の編み図をもとに、腕に覚えのある人なら誰でもが簡単に編めるモチーフを編む。
参加される方にお願いするご協力は、たったそれだけです。すごく敷居が低い。しかも、震災復興支援とおよそ関係なさそうなニットの技術が、最終的には支援に繋がっていくという、なんとも魅力的なプロジェクトです。
モチーフを編むのは、毎日15分ずつでもいい。全然、肩の力を入れる必要がありません。もちろん、休日に腰を据えて長時間取り組むこともできるけれども、とにかく、ペースを保ちさえすれば、日常のなかに組み込んで、長く続けることができる。
そして、日々の忙しさに流されてしまいそうになるなか、そのモチーフを編んでいるあいだだけは、被災地について考えてみよう、ということです。
だから、プロジェクト名は、「Think Of JAPAN While Knitting」と名付けられています。
さらに、このプロジェクトの素晴らしいところは、みんなでつくったモチーフを持ち寄ってブランケットにするので、人と人とが、人の想いと想いとが、繋がっていくところにあります。もっといえば、販売というクッションを設けることで、お金を出してくれる人までもが、繋がっていけます。
繋ぎ繋がり、人々の想いが編まれていく…、まさに、ニットそのものです。
atricotさんが、最初、僕のところに来たとき、普段やっているニットカフェのような内輪だけで終わらせたくない、広がりを持たせて、たくさんの人たちが繋がらないと意味がない、と、言ったのでした。
ニットのことなんてなんもわからない僕のところにatricotさんが来た理由は、繋がりを持たせる、繋がりをクモの糸のように伸ばしていくことがキモだと、彼女こそが感じていたからです。
僕もそここそがキモだと感じていて、そこならなにか力になれるかもしれないと思い、このプロジェクトに取り組むことになったのでした。
そこから僕が考えたことは、繋がりはカラフルなほうがいい、ということ。
雑貨大好きの女子、手しごとファン、ボランティアに熱心な方…、そういう人たちだけじゃなくて、商店街を闊歩している大阪のおばちゃんや、ニットなんてやったこともないだろう男子学生さん、外国人の方、親子…、属しているところもなにもかも違うたくさんの人たちが繋がって、全体としてカラフルな色合いになっていけば楽しいし、カラフルであればあるほどその繋がりの総体は強くなる、ということを考えたのでした。
atricotさんを見るまでもなく、ニットをされる方にかぎらず、手しごと全般にいえることは、孤高の作業のなかで、日々、邁進しているということです。
素材と向き合って素材の持つ魅力を引き出すのが手しごとなのだから、その作業は当然、気高き孤高です。誰かが手伝ってあげられる類のものではない。でも、このプロジェクトのキモは繋がりであって、絶対に、孤高であってはならないと、僕は考えたのでした。
だから、参加される皆さんが一堂に会することのできる、思いがけず繋がれそう、カラフルな繋がりが生まれそう、そんな場をこしらえたくて、モチーフ・サーキットというイベントを開催したいよね、と、4月の終わりごろ、僕はatricotさんと話し合っていました。
全体を俯瞰して、繋がってる!と見届けるなんてことじゃなくて、参加される方それぞれが繋がりを実感することで、ひとりではないということを感じることで、これから細く長く支援を続けていくためのモチベーションになったらいいなあ、と、そんなことを考えていました。
だからこそ、会場に来られない方たちともなんらかの繋がりを持てるよう、関西Ust配信の第一人者である
ナミハヤノーツさん に、Ust配信をお願いしたりもしたのでした。
ナミハヤノーツさんの珠玉の配信
「大阪の街角ぶらぶら通信 なみやはノーツ」 チャンネルは、こちらです。
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http://www.ustream.tv/channel/namihayanote そういうことが実現できそうな会場、さらには予算ゼロで運営しなければならないなかで、趣旨を理解していただき、積極的なかかわりをしていただけそうなところを考えたとき、僕の頭のなかに浮かんだのは、地域にネットワークを築いておられるようなところでした。
今回、モチーフ・サーキットの会場を無償で提供してくださったところは、ほとんどがそういうところで、会場の無償提供以上のご協力をいただいたところばかりです。
そうした方たちの多くのご協力を得ることができて、どの会場でも素敵なイベントになりました。
また、ここでは書ききれないほどの、会場毎に素敵な出来事がたくさんあり、回を重ねる毎にリピーターの方も増えて、10,000枚以上(!)のモチーフが集まったのみならず、カラフルな繋がりがたくさんできました。
繋がることをプロジェクトの真ん中に置いて本当によかったと思っているし、繋がることの力ってすごいな!と、あらためて実感しています。
もちろん、モチーフを繋いでブランケットにするという作業は、今、スーパーニッター集団の
funknitさん軍団 たちやatricotさん周辺が寸暇を惜しんでされているし、販売に向けての準備も山積み状態です。
funknitさん軍団の奮闘ぶりは、こちらのブログを。
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http://funknit.exblog.jp/ まだ、なにも終わっていない。ひと息ついている場合ではないのですが、それでも、ヒトヤマ越えた安堵感を、今、ほんのちょっとだけ感じています。
今夜の月が妙に黄色いのは、きっと、そうした安堵のせいです。
最初、繋がりがキモになると感じたとき、なぜそのように感じたのかというと、このプロジェクトはボランティアであって商売ではないのだから、かけられるおカネがほとんどない(実際、TJWKで計上した経費は、ゼロです)ということと、無関係ではありませんでした。
僕は、天五中崎通り商店街という天神橋筋と中崎を結ぶ商店街のイベントである「サイエンスカフェ」にかかわっていて、そのなかで行なわれた、
関西大学社会学部教授の与謝野有紀先生 による講義を思い出していました。モチーフ・サーキットの会場にもなった、天神橋筋商店街にある関西大学リサーチアトリエを運営する関西大学社会的信頼システム創生センター長でもある先生です。
そのことは過去にエントリーしたので、ぜひ、読んでみてください。
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「第26回サイエンスカフェは「社会的信頼学と天満・天神での試み」。不確実な世の中を生きるための「信頼」とは?」 このときの講義をものすごく乱暴に要約すると、
与謝野先生が研究しておられる社会的信頼学という分野では、
信頼を上手く利用してシステムを設計し構築していくと、不確実な世のなかにあって、システムはシンプルに築けるのではないか 、というものです。
つまり、行政でも友だちでもなんでもいいけれども、対象となるものに大きな信頼感(対象が期待された機能を果たすだろうということの推定値)を持つことができたら、自分と対象のあいだには複雑なルールを設けなくても良好な関係を結ぶことができて、上手い具合にコトを運んでいけるのではないか、ということです。
たとえば、とてもよく知っている人たち同士のあいだでは、細かい決めごとをしなくても、阿吽の呼吸でコトが進んでいきます。非常にラク。コストがかかりません。
でも、知らない人が混じっている場合、さまざまなケースを想定して、先回りしてルールを決めておかなければならない。想定したり決めごとをつくったりと、コストがかかります。
だから、信頼感を醸成することで、きわめて安価なコストでシステムを運営できるのではないか、これを大きな社会的システムにまでひろげて研究し、科学的な実験を踏まえて理論を構築されておられるのが、与謝野先生です。
もちろん、与謝野先生は、研究の一端を素人にもわかるかたちで要約されながらお話ししてくださったはずなので、僕がそのすべてを理解しているわけではありません。
それでも、僕は、このお話があったからこそ、繋がりを、今回のプロジェクトのキモに据えるべきだと考えたのでした。
今回、僕がプロジェクト製作の全体像を設計するにあたって、スタート地点としたのは、まぎれもなく、このときの与謝野先生のお話です。
モチーフ・サーキットでは、すべての会場ではないけれども、いくつかの会場で、ゲスト・スピーカーを迎えて、震災や復興にかかるお話をしていただきました。
ゲスト・スピーカーをお願いした人は、正直に告白しておくと、僕こそがお話を聞きたかった人ばかりです。
僕が聞きたいと思う素敵な方の素敵なお話を、たくさんの方にも聞いていただきたい、そんな思いがあって、僕は、何人かの方にゲスト・スピーカーをお願いしてきました。
それらのお話は、すべてアーカイブとしてUstチャンネルに残してありますが、どのお話も、今後僕たちが長い支援のお手伝いを続けていくなかで、拠りどころになるものばかりです。
与謝野先生にも、もちろん、お話ししていただきました。
昨日にエントリーした、8月6日に天神橋筋商店街の関西大学リサーチアトリエで開催されたモチーフ・サーキットの会場で、お話ししていただきました。
繋がり(信頼感)が生み出す力のすごさを説いていただくことで、このプロジェクトは間違っていないのだということを、参加される方のみならず、他ならぬ僕自身が確信を持ちたかったからです。
さらにいえば、このプロジェクトはこの先長く続けていくものだから、どこかで心が折れそうになる局面は、きっとあります。
実際、核となって動いているメンバーの元には、さまざまな意見も届いています。考えは人の数だけあるだろうし、そのほとんどは善意から発せられるものばかりだとしても、多くのものを受け止めなければならないとき、やっぱりね、ブレそうになったり、心が折れそうになることもあるのですよ。
そんなとき、拠りどころになるようなものがあれば、と、思うのです。
今回、お話ししていただいた与謝野先生のお話は、僕にとっての、そうした拠りどころです。僕だけではなく、参加されたすべての方にとって、拠りどころになるものだと、信じています。
以下、与謝野先生のお話
「希望を紡ぐ - 小さな世界の弱い繋がり」 です。
ナミハヤノーツさんが撮影してくれたUst動画を、アーカイブからご覧いただくこともできます。
与謝野先生の甘い低音とともにお楽しみいただければっ!
ちなみにTJWKのモチーフ・サーキットのすべてのアーカイブ動画は、こちらからご覧いただけます。
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http://www.ustream.tv/channel/think-of-japan-while-knitting
お話は、北米大陸の地図からはじまります。
中西部にあるまち、カンザス州のウィチタ、ネブラスカ州のネブラスカ、そして東海岸のマサチューセッツ州のボストンがマーキングされています。中西部のウィチタやネブラスカと東海岸のボストンは、3、4000kmほど離れています。
あるとき、ウィチタやネブラスカからボストンに向けて手紙を出すという実験が行なわれたのでした。
ボストンの見知らぬ人、誰でもいいのですが、任意のある人に、人の手を介して手紙を届けるというものです。
ボストンのその人と直接の知り合いなら、その人に直接手紙を手渡すことで、この実験は終了します。
でも、知り合いでなければ、知っていそうな誰かに手紙を託し、その人からまた誰か近そうな人に手紙を託し、と、人を仲介し、何人くらいの仲介が入ると手紙は届くのか、という実験です。
100人? 70人? いやいやもっと少なくて30人?
これね、結果は、平均に近い数字だと、5人なのだそうです。
距離をひろげればまた違った結果が出るだろうし、数学的にはまだまだ議論の余地があるとのことだけれども、5人という数字が象徴しているように、とても大きなこの世界も、僕たちがつながると、手の届く小さな世界にすることができる、ということです。
極端な例でいうと、僕がまったく縁もゆかりもないオバマ大統領に手紙を届けたいとしたら、5人か6人、それに近い数字の仲介者がいれば届く、ということです。
これを、
「スモールワールド」 と呼びます。
おさらいすると、
僕たちがつながることは、この大きな世界を手の届く小さな世界に変える力を持っている 、ということです。
これが、つながりの力。僕たちが持っている能力です。
普段は意識しないけれども、僕たちは、どうやら、つながることで距離を簡単に超えることができるようなのですね。
では、そのための「つながり」とは、いったいどんなつながりが大切なんだろうか?
いつも一緒にいる、とても仲のいい、自分といろいろなところが似ているような人たち。
このようなつながりは、もちろん大切。
今回のTJWKでも、スーパーニッター・プロ集団のfunknit軍団のような人たちがいて、そのパワーたるやすごいです。
こういう人たちのつながりは、もちろん大切です。
この強いつながりは、人々の生活の基盤として、とても大切です。
でも、あまりにも似すぎていて、新しいものと出会っていく機会は、あまり多くありません。
一方で、
あまり深く知っているわけではないけれども、どこか信頼を寄せることができるんじゃないか、というつながりがあります。ときには、そういうつながりが大切になってくることがあります。 このつながりは、「弱いつながり - weak tie」と言います。自分と異なる考えや情報、資源を持った人たちと繋がる可能性を持ったつながり です。
与謝野先生は、このようにおっしゃっていました。
若いころはずいぶんと鍛えられたけれども、どこで教わったのかというと、教員から教わること以上に、飲み屋のマスターや隣に座ったおじさんから教わること、もう二度と会わないかもしれない人たちだけれどもそのときちょっと触れ合う人、そういう人たちの情報って、とっても大切だった、と。
このようなことは、
「strongs of weak tie」 、つまり、
弱い紐帯の強さ と呼ばれていて、
弱いつながりと思われているものはじつはいろんなものをつないでいく力が強い 、ということが、社会科学では言われているそうです。
人々のあいだを橋渡しし、自分の世界をひろげていくという点で、「弱いつながり」はとても大切です。
もちろん、「弱いつながり」といっても、相互にある程度の信頼関係があり、また「どのつながりが一番今大切なのか」を見極める力は、大切です。
だから、誰とつながってもいいわけではないです。
そして、この、TJWKというプロジェクトは、じつは、そういうつながりでできているものだと、先生はおっしゃってくれました。
そして、
多くの人が、「見知らぬ誰かの力になりたい」「でも、どうやったらそれができるのかわからない」と考えているとき、人々の「弱いつながり」は、社会に新しい力とチャンスを与えます。 ところで、与謝野先生の子育て論は、こうです。
そこそこキチンと育ったなら、
まずは、他人に迷惑をかけずに自分で立つこと。
2番目は、大切な人や愛する人の助けになること。
もっと能力があるのなら、見知らぬ誰かの助けになること。
おそらく、人間にとってはそれが重要だと、与謝野先生は考えておられます。
最後の、見知らぬ誰かの助け。
今、ここに集まっているTJWKに参加された方は、まったく会ったこともない、見知らぬ誰かのためになにかちょっとでもしたいと思う人たちの集まりです。こういう人たちの集まりは「弱いつながり」であっても「強い力」を持つ、と、与謝野先生はおっしゃいます。
おカネや大きな権力を持たずとも、弱いつながりを集めることで強い力を持つことができる、と。
次に、弱いつながりの強さの実例を、示していただきました。
たとえば、地域活性化でよく言われるキーワードは、
「ばかもの、よそもの、わかもの」 です。
「よそもの」は、地域と地域をつなぐ橋渡しのできる人です。
「わかもの」は、経験は浅いかもしれないけれども、いろんな積極性があってつながることのできる人です。
実例としてあげていただいたのは、
兵庫県丹波市にある関大の佐治スタジオ です。
こんなところです。
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http://sajiaogaki.exblog.jp/ 古民家を改装するということをやっています。
人口がどんどん減っていって一度は元気がなくなったまちを元気にしようという活動です。すでに5年間取り組んでいます。
わかもの、つまり関大の学生がどんどん行って、地元のお祭りに参加したり、古民家を自分たちで改装したりします。
出町さんという方は、ここに30年住むつもりで頑張っておられます。そうやって取り組むうちに、地域の人たちが、じつは自分たちのまちはおもしろいんじゃないか?と思うようになったのだそうです。
出町さんのような、愛すべき「ばかもの」、そして関大生の「わかもの」がいて、このプロジェクトは成功例のひとつに数えることができる、と。
でも、これは関大と丹波という遠くにあるもの同士がつながった、そのつながりの橋渡しが大きかった、と。
大きな世界も、弱いつながりで小さな手の届く世界にすることが、できます。
少ししか知らないし、自分と「年齢」も「住んでいる場所」も「職業」も「学校」も違うけれども、つながりのできた人たちー。
ここ関西大学リサーチアトリエで行なわれた第1回目のモチーフ・サーキットの写真を見ると、みんな素敵な顔をしていました。
関大の男子学生は、もう少し年齢の高い女性の方に、ほんとにデキの悪い子供たちや!と散々に叱られながら、でも楽しそうに編みかたを教わっていました。
最後、その女性は、そのときのゲスト・スピーカーだった草郷先生をつかまえて、30分間も、若い人たちがどれだけ編めるようになったかということを自慢げに話してくれたのでした。これって、すごく嬉しいことですよね。
そしてこれは、ほとんど名前も知らないような弱いつながりだけれども、信頼できるちょっとしたつながりです。その女性たちは、男子学生に教えてもなんの得にもならないけれども、それが嬉しいということは、とても人間らしくて素敵ですよね。
この、
弱くて、日々の暮らしでは思い出すことも少ないようなつながりが、希望を紡ぐことがあります。 与謝野先生は、そんなふうに考えておられます。
数学的にはいろいろとややこしい議論があるのだそうだけれども、それはべつとして、いくつかの研究はそのことを明らかにしつつあるし、その実例も、紹介していただけたのでした。
小さな世界の弱いつながりは、大きな世界を手の届く小さな世界に変える力を持っていて、そのことは、お金ではできないことを可能にする力を持っています。
たとえば、天神橋筋商店街の南森町の交差点の角に、
りそな銀行のショーウィンドウ があります。そのショーウィンドウの前には放置自転車がぎっしりと停められていて、ショーウィンドウも全然使われていませんでした。
その場所で取り組まれたことを紹介していただきました。
北区役所やりそな銀行の方、北区の職人さん、コーディネートしてくれる方をつなぐだけで、ショーウィンドウは提灯の展示に生まれ変わり、そのおかげでウィンドウ前の放置自転車も減り、素敵なものが生まれました。関大は、人々をつなぐことだけをお手伝いしただけだと、与謝野先生はおっしゃります。ほとんどおカネをかけていない、とも。社会のためにおもしろいことやりたいという、そういう思いを寄せ合って、こんなチャーミングなものが生まれました。
次の実例は、
大阪天満宮の境内で地下水を掘っている取り組み です。このあたりは良質な地下水が流れている場所で、かつては135軒もの造り酒屋が軒を連ねていました。これを再生しよう!ということで、大学と天満宮と地域が連携して、水を軸に地域をつなごうという試みです。これも、そんなにおカネをかけていないけれども、おそらく、ケタの違う効果をもたらすことになりそうです。でも、最初は、それぞれの思いと知識をつなげてはじまったことです。
与謝野先生は、さらに実例を挙げてくださいました。
その成功例として、僕たちの、
Think Of JAPAN While Knitting を。
・モチーフ・サーキット
・ブランケット・ミーティング
・セール&オークション
・「あしなが育英会」
という、プロジェクトのそれぞれのステップとともに、太平洋を挟んだ世界地図が示され、発端となったカナダ・トロント在住の新田さんと日本のatricotさんが、線で結ばれています。
ここで使われたatricotさんのチャーミングな写真のチョイスに与謝野先生のドSぶりが発揮されているのだけれども、それは余談として(笑)
再び、相関図が示されます。
新田さんがいて、そこから伸びた線の先には、atricotさんがいます。地域活性化の登場人物でいうところの、「わかもの」です。
atricotさんからは、何本もの線が放射線状に伸びていて、その多くはニッターのみなさんです。
そして、その線のなかのひとつは、僕につながっています。
僕はハートを持った、たくさんのネットワークを持った人として紹介されていて(笑)、これまたたくさんの線が僕を中心に放射線状に伸びていて、そのなかのひとつは、Ust配信を担当してくださったナミハヤノーツさんとつながっています。
さらにもうひとつの線は、与謝野先生につながっています。
さて、僕と与謝野先生は…、そう、与謝野先生にとっての僕は、少なくとも家にいてお酒を飲んでいるときに顔を思い浮かべるなんてことはまったくないという存在、つながりです。これは、きっと、正しく、その通りです。さらにいえば、与謝野先生は僕の大部分をご存じないだろうし、僕もまた、与謝野先生の一端をかろうじて存じ上げている、という程度です。それほど、両者のつながりは弱いものです。
与謝野先生からももちろんたくさんのつながりが放射線状に伸びていて、そのなかのひとつには、最初のモチーフ・サーキットでゲスト・スピーカーとしてお話ししていただいた草郷孝好孝先生がいらっしゃいます。
さらに、このたびは、関西大学のオープン・キャンパスにて、完成したブランケットの展示とTJWKの概要をPRする場を提供していただくことができました。
そこには、高校生やその親御さんを含めて、15,000人もの人が来られます。そういう場所でブランケットを見てもらうことで、また弱いつながりが生まれます。
この相関図を俯瞰していて思うのは、僕とatricotさんの関係はともかくとして、それ以外のすべてのつながりは、じつに弱いつながりで成り立っている、ということです。
少なくとも、いつも一緒にいる、とても仲のいい、自分といろいろなところが似ている、生活の基盤にあるようなつながり、ではない。それでも、その「弱いつながり」は、どこか信頼を寄せることができるつながりです。
もちろん、この弱いつながりには、TJWKに参加してくださったたくさんの人たちも含まれていて、じつにたくさんの、無数といっていいほどの「弱いつながり」が生まれています。
でも、
この「弱いつながり」が、現実に10,000枚を超えるモチーフを編み、強い力を生み出しました。 与謝野先生は、そのように、評価してくださったのでした。
その力は、必ずおカネになって、具体的に、東北の見知らぬ人たちの力になっていく、とも。
最後にスクリーンに写しだされたものは、津波に襲われて根こそぎまちが破壊された、悲しい風景の写真です。
そこに、僕たちのモチーフやブランケットの写真が重ねられたのでした。
僕たちのTJWKは、 弱いつながりによって 大きな世界を手の届く小さな世界に変え、希望を紡ぐ力になる 、と、エールを送ってくださったのでした。
冒頭に紹介された、「スモールワールド」の概念は、理論や研究、手紙を送るといった実験があるばかりで、実践された例は少ないのだそうです。でも、TJWKはいい実例になっている、と。
個人としても、人間としても、研究者としても、非常な興味と歓びを持ってこれからもかかわっていきたい、と、最後に、与謝野先生はおっしゃってくれたのでした。
以上が、与謝野先生がこの会場でお話ししてくださったことのすべてです。
僕は、お話を聞いているあいだじゅう、ずっと、こみ上げてくるものを抑えていました。同時に、あたらめて、襟を正してもいました。
拙いながらも、ある思いを抱えて挑んだことを、尊敬する研究者がエールを贈るとともに評価してくださる。これが拠りどころにならないはずがないです。同時に、ずっしりと責任を負わされた気分にもなったのでした。
でもそれは重荷でもプレッシャーでもなくて、旅の荷物を伴侶にたとえた「ワルチング・マチルダ - Walzting Matilda」のような心地よさです。
この、与謝野先生の講義が、TJWKにかかわってくださったすべての方に届きますように。
心が折れそうになったとき、闇に突っ込んだとき、袋小路に陥ったとき、このお話がマイル・ストーンになる、僕はそんなふうに信じています。
僕にとっての、そんな宝石です。
与謝野先生、ありがとうございました☆
いつか、ご自宅でお酒を飲まれているときに僕の顔を思い浮かべる日が来ますように(笑)
Think Of JAPAN While Knitting モチーフ・サーキット HP http://atricot.jp/tjwk/
関西大学リサーチアトリエ 大阪市北区天神橋3-9-9 8月6日(土)10:00-17:00 開催 関西大学社会学部教授・社会的信頼システム創生センター長 与謝野有紀先生による講演「希望を紡ぐ - 小さな世界の弱い繋がり」 HP http://www.kansai-u.ac.jp/rakusai/